![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
|||
![]() |
![]() |
|||||||
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
|||||
![]() |
対談 ウーロン茶の神髄を語る(その1) ◇作家 陳 舜 臣氏 楼蘭社長 甘利仁朗◇ 日経流通新聞 昭和55年10月6日号より 中国茶、中でもウーロン茶はニセ物さわぎが起こるほど愛飲者が急増し、一種のブーム状態となっている。これは戦後三十数年、中華料理が一般 家庭にすっかり定着し、ウーロン茶を受け入れる素地が出来上がっていたところへ、日中平和友好条約の締結に伴う友好ムードの盛り上がりと、半健康人間の増加による健康食品への関心の高まりなどが重なったためである。しかし、ウーロン茶の専門業者の中には、現在の人気が一過性の異常人気に終わることを警戒し、ウーロン茶の本当の良さを知ってもらって、新しい常用茶の一つとして普及することを願っているものもある。そこで、中国事情にくわしく、父祖の地が、ウーロン茶の生産地福建省という作家陳舜臣氏と、今春外国人として初めてウーロン茶産地を視察した福建省参観団の団長甘利仁朗氏に「ウーロン茶の神髄」を対談してもらった。(司会は富樫日本経済新聞開発部長) 四本しかない名茶“大紅袍” ―陳先生は今春、ルーツ調べを兼ねてウーロン茶産地を実地にご覧になったそうですが、そのご感想から―。 陳 産地の様子は想像と違っていました。普通、お茶の栽培は、平地で“お茶畑”という感じがするのですが、武夷岩茶は字の如く武夷山中の岩場に生えていて、あまり育ち過ぎてもいけないそうです。 最上級のお茶は、岩に普通の木が生えているように育っています。高級品となると岩場にバラバラに生えていて、幾らも採れません。特に代々の皇帝にだけ献上されてきた「大紅袍」は危険な断崖絶壁のような所に生えています。これは1本の名木で一つの茶種名を持っており、今は副木を合わせて四本しかありません。 甘利 毛沢東さんも飲まれていたそうですが、華国鋒さんになってからは国賓に若干使用することになったそうです。 なにしろ四本で一年に五百グラムしかとれないのでとても日常使うほどにはないといいます。 ![]() ―福建省にもいろいろの種類の茶があるようですね。 陳 ウーロン茶は半分発酵させたものでして、全発酵させると紅茶になります。発酵をどこで止めるか。止める程度と、産地によっていろいろ種類があります。味の方は個人差が大きいので、どれがおいしいという押し付けは出来ないのです。 ウーロン茶の双へきといわれる安渓鉄観音と武夷の水仙という種類を飲んでみましたが、鉄観音は香りは強いが、あとに味わいが長く残る水仙の方が好きです。 鉄観音は一時的な香りが強いが、余韻はもう一つという感じですね。 中国ではよく湯呑みにじかに茶の葉を入れて熱湯をそそぐ。はじめは茶の葉が表面 に浮いて飲みにくいので日本人になじまない飲み方かもしれません。しかし、葉は次第に沈むので、飲むたびに湯の中に開いた茶の葉を見ることが出来ます。いかにもくつろいだ気分になるので、ウーロン茶に関する限り葉を刻むのはもってのほか。葉を刻めば、混ぜものをしたとみられても仕方がないですね。 甘利 ウーロン茶には大別して鉄観音、色種、水仙の三種があります。 福建省の中央を流れるみん江(ミンコウ:Minjiang)を境にして、南のみん南(ミンナン:Minnan)地方は鉄観音と色種が中心、みん北(ミンベイ:Mingbei)地方は水仙が主体です。 南部の二種は非常に似ており、どこが違うかといえば鉄観音は香りが強く、こくがあるが、色種はやや軽く香りが日本茶に似ています。従って日本人が中国茶に入る場合、色種からの方が入りやすいといわれています。 この二種は似ており香港では区別せず鉄観音として売っている場合が多いといいます。 北は水仙ですが、その最高級品が武夷岩茶といわれています。 陳 武夷山に行った時、きき茶をしましてね。小さな盃にガッポリ注ぎ、溢れさせて飲む。歯の間にしみ込ませて味わうわけですが、私は鉄観音、水仙の区別 はつくけれど、甘利さんはクラスを分ける号までおわかりです。 ―中国にはこれらのほかいろんなお茶があると思いますが…。 甘利 六大茶種といって緑茶、ウーロン茶、花茶、紅茶、緊圧茶、白茶があります。 ―今、日本に来ている中国茶は? 甘利 ジャスミン茶、ウーロン茶と緊圧茶の中のプアール茶の三種が主なものです。 ―二、三年前からブームと言われるほど中国茶を飲む人が増えていますね。ブームの背景を。 陳 私は前から中国茶を飲んでおりまして、気がつくとまわりの方が飲んでいるということなんです。 中国に行くたびにいろいろな種類のお茶を持ち帰るんですが、最近は、中国では、ウーロン茶が買えなくって、逆にお土産に持ってゆくと喜ばれます。(笑い) 甘利 中国茶を始めたのは五年前ですが、そのころは今日のブームなど予想もしていませんでした。 ただ中国で飲んだお茶の中に非常においしいのがあって、それがウーロン茶でした。日本に紹介することを手がけたいと思い、香港で買い集めたりしているうちにお茶の味がわかって来たところで陳先生をご紹介願い、お訪ねしたら一冊の本をお貸しいただきました。それが「支那叢報」(チャイニーズレポジトリー)という十九世紀中ごろ書かれた本で、その中に広州商工会議所の会報があったのです。 陳 在留外国人を対象にしたもので部数はそう多くありませんでした。阿片戦争前に林則徐がこれを集めて翻訳させ、海外事情を研究したという有名な雑誌です。中国人は「澳門(マカオ)月報」といっておりますが、澳門で出たのだろうという誤解から呼ばれていたようです。 ―それにお茶のことが記載されていたのですか。 陳 当時外国から中国にやって来たのはお茶を買う人達でした。中国の貿易はお茶から始まったといえるでしょう。福建省のウーロン産を中心にどんどんお茶が海外に出て行くが、中国は別 に外国からものを買わなくてもよかったから、英国にすれば片道貿易となり貿易収支が赤字になった。そこで外貨不足を解消するために何かいい商品はないか、と思いついたのが阿片でした。その阿片が当たってしまい、均衡をとるどころか、中国の阿片輸入がお茶の輸出を大幅に超えたために、あの阿片戦争になったわけです。 ![]() ―ティー・クリッパーという快速帆船でお茶を運んだそうですね…。 陳 お茶の初荷は相場も高い。そこでだれもが第一船になろうと競争で優秀な船を造ったわけです。ロンドンの茶商は毎日波止場に立って、「きょうはどこの船が着くか」と見守っていたところ第一船がカティーサーク号だったとか。それでウィスキーの名前に残ってるんです。 お茶は航海術を発達させる原因にもなりました。 ―日本における中国茶の歴史的背景は…。 陳 中国には緑茶はありまして、日本の留学僧が持ち帰ったのが始まりといわれております。 今の中国茶ブームはウーロン茶で、日本にはこれまでほとんどが緑茶でした。違う種類を新しいものとして受け入れたのではないかと思います。 ―ウーロン茶は欧州へ先に入り、日本へは最近になって新しい種類として入ってきたものなのに、爆発的に愛飲されるようになった理由の一つにに戦後の食生活の変化があげられると思いますが…。 甘利 急にブームになったようですが、基盤は十分整っていたと思うんです。 二つの隣り合った文化の接していない部分がお茶の分野でした。数百年前に緑茶の交流のあったものが、そのあと途切れてしまったけれども、食物の方は中華料理が入って中華風が進んでいた。それに伴うお茶も改めて交流し始めたというわけですね。 陳 ブームを呼んだ原因に戦後の食生活の変化が一番大きいと思いますね。日中戦争は不幸な出来事でしたが、“禍(わざわ)いを転じて福となす”です。 中国に多くの人が渡り、向こうの味になれた。戦後帰国したところ、戦前の中華料理と戦後のそれとは基本的に違っています。 昔は中華料理は、自分達のものではなく、たまに食べに行こうという程度だったが、今はラーメンのように日常の日本食の中に溶け込んでしまった。 ところが料理と一緒に飲むお茶だけが遅れて入って来たということです。追いつくのに約三十年の時間を要しました。歴史上でも強い権力が生まれて、その権力を主張するりっぱな古墳や歴史を作るまで時間がかかるのと同じで、日本に入って来てもなれるまでは歳月を要するわけです。 それがちょうど今の時期になるのではないでしょうか。 今までは日本茶しかなかったから中華料理に日本茶を合わしていたのだと思います。 ―中華料理を食べれば、洋食のコーヒーのように中国茶の出るのは当たり前ですが、今までは片方欠けていたわけですね。 甘利 ジャスミン茶だけの時代があったわけですが、私の感じでは一般的ではないように思います。 陳 あれは花の香りを付けたものですね。香りというのは味覚の中でも最も抵抗感があるものです。 日本人は松茸(まつたけ)を喜んで食べるが、天ぷらやさし身は食べる外人でも、松茸は勘弁してくれろいうようなものです。 ジャスミン茶は強いにおいがあるからあまり入り込めず、形式的に出されていたんじゃないですか。 その点ウーロン茶はスッと入る要素があると思うんです。 甘利 それに福建省料理は実に日本料理に似ており、びっくりしました。あんなに違和感のない料理は初めてです。 陳 割合に淡白ですね。 ―中華料理には北京、上海、広東、四川などありますが、ウーロン茶が入って来たので、それに合う福建料理がはやることも考えられますね。 陳 私も同感です。 また紅茶は砂糖を入れなければ飲めません。ところがその砂糖を制限する人が増え、なにか適当なものがないかでウーロン茶を飲む人もいるようですね。 ![]() |
![]() |
![]() |
|||||
![]() |
|
![]() |
![]() |
|||||
![]() |
![]() |